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ICOMリオ大会と大会の日本招致に向けた動き

2013年8月12日から17日まで、3年に一度開催される国際博物館会議(ICOM)大会(第23回)に参加した。ブラジル・リオデジャネイロの郊外、バーハ・ダ・チェジュカ地区にあるCidade das Artes(芸術都市ビル)を会場とし、諮問委員会、開会式、総会、31の国際委員会などが開催された。世界103ヵ国から、1,894人の博物館関係者らが参加した。日本からはICOM会員を中心に30人が参加し、5人が事例発表を行い、また4人が国際委員会などの理事に就任した。近年のICOMにおける日本のプレゼンスの低さから考えれば、今回の日本からの事例発表数や理事就任数は突出していることが分かる。地理的に近く、日本から参加しやすかった前回2010年の上海大会時にも増して、今回のリオ大会は日本からの参加者にとって重要な意味を持っていた。2016年の開催地はイタリア・ミラノに決定しているので、2019年以降のできるだけ早い時期に日本に大会を招致できるよう、日本からの参加者は活発に売り込みを図るとともに、各国の国内委員会や各国際委員会などの考えを調査したのだ。日本国内の開催都市はまだ未定ではあるが、売り込みや調査は始めるということで、日本関係者の間で事前に合意をしていた。このことに対する筆者の基本的な考え方は、ICOM会員数が少なく知名度も低い日本では財政基盤や政治力も弱いため、多数の会員や大型予算に頼るような「数の論理」ではなく、少数の会員一人一人が個性を存分に発揮し、世界のICOM会員(特に役員)の中から多くの友人を作り信頼関係を構築することで、日本への大会招致を実現させることができるのではないか、というものである。ここでは、以上のような背景や考え方のもと、筆者がリオで経験したことについて報告する。

まず、8月14日には地方博物館国際委員会(ICR)で、筆者が勤務する吹田市立博物館(大阪府)の市民参画型展覧会づくりについて発表した。実は、筆者はICRの会合へは、初参加だった。よって、ここで意識したことは、発表の中身もさることながら、どれだけ多くの会員に印象を残すかということであった。市民参画によって展覧会をつくるための方法論や意義・課題・展望などを包み隠さず話すことで、多くの人の興味を引くよう努めた。また発表では、市民参画によって収集した50年前の簡易型ユニットバスの紹介をしたが、風呂に入るという世界との共通性と、コンパクトなつくりという日本製品の独自性から、関心を持つ人が多かった。結果、ICRでの筆者のニックネームが「バス・マン」になるくらいのインパクトを与えることができ、発表原稿の送付依頼が相次いだ。

ところで、ICR参加者から聞いた話も紹介しておく。ある中国人参加者によると、「中国には31の省・直轄市・自治区があるが、その中で50以上の地方博物館がICRに団体会員として加入している」とのことである。そうした背景から、英語が全く話せない中国の有力者(省立博物館館長でICOM中国委員会の幹部)をICRの理事に選出させているという(参考:日本のICOM会員は団体で28、個人で147、ICR会員は団体0、個人5、今回のICRへの参加は会員からは筆者のみ)。このことについてヨーロッパ出身のある理事は、「年次会合や理事会の時は、いつも通訳が同行している」と語っていた。今回も省立博物館の館員の女性が最後まで付き添っていた。中国は中央政府が影響力を行使し、全国の博物館に予算配分をしたり、新しい地方博物館建設を積極的に行ったりしており、日本とは博物館を取り巻く状況が違う。筆者は今回の参加・発表で、多くのICR会員と仲間意識を作ることができたので、今後に向けた第一歩としては成功だったといえる。2014年のICR年次会合は台湾で開催される(10/19~25)。日本には、地方自治体が設置する博物館を含め、地方博物館が非常に多い。台湾は地理的に近いので、日本からも地方博物館の関係者が参加し苦労話を共有するなど、ICRに馴染むことができれば、結果として日本のプレゼンスを高められるのではないだろうか。

今回は関係者間の事前の打合せで、日本からの参加者がすべての国際委員会や専門委員会などに張り付くことはできないので、分担していくつかの委員会を梯子し、様子を伺ってくることになっていた。筆者は、ICRのほか、展示交流国際委員会(ICEE)、民族学の博物館・コレクション国際委員会(ICME)、ブルーシールド(Blue Shield:文化財のための赤十字に相当するネットワーク組織)に参加してきた。

まず、ICEEについて。吹田市立博物館は、国際協力機構(JICA)博物館学コースの個別研修で発展途上国の学芸員を毎年数名受け入れており、例年筆者が5日間の研修を担当している。2013年は7月に5人の学芸員を受け入れたのだが、そのうちの1人でアルメニア人の学芸員とは、彼が日本滞在中からICOMに参加するのでブラジルで会おうという約束をしていた。今回参加し、再会することができたのだが、実は彼は、ICEEの理事になっており、研究発表のモデレーターも務める実力者だった。大会終了後、声を掛けられ、2015年か2018年にICEEの年次会合を日本で開催することで、日本の大会招致を応援したいという。日本のICEE会員は5人しかいないが、できれば日本での開催をICOM日本委員会に打診してみたいと思っている。博物館3学会からの協力など、実現の方法がいくつか考えられる。また、ICEEからも開催のための予算が多少出るとのことだが、不足分は、国内外の展示業者など、スポンサーの協力が不可欠である。これまでのJICAの国際協力による副産物がこういったところにも表れているとすれば、研修に関わるものとして大変嬉しいことである。

次に、ICMEについて。今回、筆者もお世話になっている英・レスター大学の先生が委員長に就任した。筆者が参加した時は、45人程度の少人数で研究発表を行っていた。会場を見回したところ、おそらく45人中30人程度が少数民族を研究対象とする側、つまり欧米の多数側に属すると思われる人々、15人程度が少数民族や研究対象とされる当事者側の人々だったように見受けられた。少数民族などの15人程度のうち半数以上が発表をしており、単純化すれば、多数側の人々が少数側の人々の発表を聞いているような構図が生まれていたともいえる。民族学の博物館・コレクションのあり方を議論する博物館人類学は、展示をつくる際の当事者参加を重視している、もしくは、重視しなければ、学問としても民族学博物館としても、生き残っていけないという危機意識を持っていることを象徴的に表している構図のように思えた。このような考え方は、吹田市立博物館のような地域博物館に引きつけて考えることもできる。つまり、地域博物館の運営の様々な面への市民参画でも似たような構図が描けるのではないかと思うのである。その意味で、筆者が発表をしたICRの動きと共通性があり、またICOM自体が、非西洋諸国出身の参加者も多いという背景から、もともとその性格を持ち合わせているようにも思えるのである。

最後に、Blue Shieldと災害救援タスクフォース(Disaster Relief Task Force)の合同セッションについて。Blue Shield関係の研究会は日本でも2012年から2013年にかけて2回開催されているのでご存知の方もいるかと思われる。もともと文化財を戦争被害や戦争による混乱時の盗難から守るために発足した経緯があるが、近年は自然災害から文化財を守る活動も展開している。今回の合同セッションでは、Blue Shieldの組織や活動紹介、事例発表など、これから取り組みを始める国のために概要を紹介し、Blue Shield国内委員会の設立などを奨励する内容の発表が多かった。日本では戦争というよりは、やはり自然災害や火災からいかに文化財を守るか、ということが特に重要な課題であるし、最近では局地的な課題として原発汚染から文化財を守る、という重いテーマもある。このようなこれまでの経験から、NPOや大学を含め、それらを国際的にも生かす能力が日本にはある。しかし、日本はそれぞれの活動が独自に発展してきた要素が強く、能力は高いのにそれらを効率的・効果的に取りまとめるという点において不十分なところが見受けられる。今後はそれぞれがこれまで培ってきたものをまとめていく国の機関として、文化財の防災・救出センター(国内活動用)やそこを事務局とする国内委員会(海外活動用)を立ち上げる必要があろう。2014年には、アメリカ博物館同盟(AAM)などでこのことについて発表の機会もあるため、そうした場で日本の国内委員会立ち上げのための動きを紹介することで、日本の積極的な取り組みを国際的に知ってもらうことも意義のあることであろう。また合同セッションでは、国内委員会の立ち上げのための「スターティング・キット」があることも紹介された。そうしたものを活用して、日本でも数年以内に日本委員会が立ち上がればと願っている。

大会全体としては、ブラジルの博物館関係者で構成された実行委員会による大会運営の雑さが目立った。それでも大会が成立してしまう、ということを学んだこと自体は、日本にとって収穫だったといえる。しかし、日本での大会が実現した時、同様の運営をする訳にはいかない。多少の遊びはあった方がいいが、締めるべきところは締める必要がある。日本での開催の場合、予算面、人材面(博物館関係者にとどまらない幅広い人材・人脈の活用)、語学面、日本のプレゼンスの低さの問題、日本の博物館関係者の意識高揚の必要性、など解決すべき課題が準備段階において山積している。多様な意見を取りまとめ、これを実行に移すには、大会招致を検討する委員会の活動をさらに活発化させる必要がある。関係者は皆、本務で忙しい中での活動となるが、大会の開催を実現させるまで、忙しい日々とうまく付き合っていくより他ないだろう。
by saotome_kenji | 2013-11-25 20:18 | 10.徒然日記
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